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論文”Aberrant proximal tubule DNA methylation underlies phenotypic changes related to kidney dysfunction in patients with diabetes”がAmerican Journal of Physiology-Renal Physiology誌のオンライン版に掲載されました。
■研究背景
糖尿病の予後とQOLには、糖尿病性腎症の有無が大きく関与します。糖尿病には、発症した時期の血糖コントロールが悪いと、その後コントロールが良くなっても悪かった血糖の状態を体が覚えていて10年以上経過した後でも腎臓障害を増加させる「メモリー現象」があることが知られています。最近、メモリー現象にはエピジェネティクス異常が関わることが明らかになってきました。エピジェネティクスは、遺伝子のスイッチとして遺伝子の発現を調節するしくみで、DNAメチル化やヒストン修飾が含まれます。DNAメチル化は安定性が高いため、糖尿病で生じたDNAメチル化の変化は、持続しやすい性質があります。糖尿病では、腎臓近位尿細管に生じるフェノタイプの変化が腎機能悪化の原因になるため、本研究では、糖尿病性腎症の症例の近位尿細管みられるDNAメチル化変化を解析しました。
■研究内容
糖尿病性腎症の症例の尿細管では、正常腎臓に比べて、代謝やトランスポーターなど、近位尿細管機能を担う遺伝子にメチル化の増加が生じていました。なかでも近位尿細管の分化に関わる転写因子HNF4AのDNAメチル化増加と発現低下が糖尿病症例では認められ、HNF4Aの低下がHNF4Aによって制御される代謝やトランスポーターの異常メチル化を引き起こして、尿細管の機能低下に関わると考えられました(図)。
一方、酸化的ストレスや細胞骨格アクチンに関連する遺伝子はDNAメチル化の低下がみられ、酸化的ストレスや細胞骨格の変化が促進されて炎症や線維化の増幅に関わると思われました(図)。
今回明らかになったDNAメチル化異常は、遺伝子発現の固定化を介して、近位尿細管のフェノタイプ変化をもたらし、腎臓障害の進展を促進させると考えられました。このエピジェネティック異常は、メモリー現象に伴う不可逆的な腎臓障害進行の要因になり、今後、新たな治療標的として有望であると思われました。